山梨県鳴沢村・富士吉田市の林道
軽水林道・富士林道・侭下林道


 長らく山の中の道を走り続けているが、日本の山の代表格といえばやはり富士山である。
 もっとも富士には林道は無縁で、周辺にツーリングマップルにもダート表示は見あたらない。
…と思いきや、実はその富士の裾野を駆け上がる林道が存在するのだ。今回は富士を見な
がら林道を走る小旅行、最後にこの名峰・富士の裾野にある道を走ることにした。

 観光客の車がたくさん走る幹線道路、富士パノラマラインこと国道139号。道の駅なるさわ
付近にある交差点(セブンイレブンとガストが目印)で、富士に向けて曲がる。道の所々には「ふ
じてん」の案内看板がある。スキー場「ふじてんスノーリゾート」への案内看板で、富士の林道
へのアクセスはこの道を進めばいいからわかりやすい。
 途中の道路脇にひっそり、鳴沢林道の林道標識が立っている。もっともスキー客がこの標識
に気づくはずもなく、ここから林道だなどと興味を示すのは我々林道マニアくらいしかいない。

 
鳴沢林道起点 ふじてんスノーリゾートへの道の途中にある

 鳴沢林道へと名を変えた道をさらに進む。多少登りはきつくなるが、それでもここはスキー場
へのアクセス路、しっかりセンターラインの書かれた幅広の舗装路が続いている。
 広い広場に出ると、そこがふじてんスノーリゾートの駐車場。12月に入り、スキー場は人工
雪ながら数日前にオープンしたらしい。駐車場には駐車車両も見え、ゲレンデからは音楽が聞
こえてくる。初滑りを楽しむ人がやってきているようだ。
 駐車場の手前、右へ分岐する道がある。見逃しそうなこの道が鳴沢林道の続きである。ゲー
トがあるものの、今日は開いている。裏返しの看板があったので覗いてみたら、冬季閉鎖の掲
示があった。毎年12月10日頃から5月上旬まで通行止めとある。今日はまだ解放期間中だ
が、閉鎖寸前できわどいところだった。

 
ふじてんスノーリゾート駐車場で、右へ曲がる ここからいよいよ本来の林道区間
山梨県仕様のわかりやすい案内板があり、ルート確認に役立つ

 路面は舗装のままだが、道幅はだいぶ狭い。前方から林野庁の四駆がきたが、すれ違うの
がやっとである。
 十字路に出ると、鳴沢林道終点の標識があった。まっすぐ行く道はダートだがゲート閉鎖。左
右に延びている舗装路は軽水林道で、右は数十メートル先でやはりゲートクローズである。進
めるのは左折方向のみだ。十字路脇には大きなアズキナシの木がある。この木はアズキナシ
という種としてはきわめて希な巨木で、山梨県の天然記念物にもなっている。


鳴沢林道終点の十字路 直進はダート路でゲート閉鎖
左右は軽水林道だが右は少し先でやはり閉鎖されている
 
天然記念物にもなっているアズキナシの木 国内でも珍しい大きさとかで、案内板も立つ

 もちろん左折して軽水林道へと進む。「この先6q先より未舗装区間普通車通行困難」という
看板が立っている。富士を走る林道にダートが残っているというのも半信半疑だったのだが、
これで本当に存在することがはっきりした。

 早くも目の前に富士の姿が現れた。予想以上大きく見え、その迫力にびっくり。国道を走って
いたらこんな近くを走ることはないから、貴重な眺めである。


正面に富士が現れた

 道は左へと向きを変え、富士の姿も車窓右方向へと移った。遮るものもなくなり、ますます雄
大な眺めである。


だんだんと富士の頂が迫る

 そして道はダートへと変わった。すぐに巨大な富士が正面に出現、思わず車を止める。これ
ほど富士山頂に近い場所に、ダート林道が残っていることに驚いた。実はこのすぐ上の斜面
を、有料道路の富士スバルラインが通っている。スバルラインは誰でも通れる道路で、通行料
金が往復2000円と高いし(ただし一部区間が不通の場合は安い料金になる場合もあるらし
い)、第一何も面白みのない舗装道路だ。この軽水林道はタダだし誰も来ないし、しかもダート
区間がある。なかなか貴重な体験をできる、ありがたい道路なのである。


路面は未舗装、目の前にでっかい富士という、最高の林道

 「普通車通行困難」などと書かれていたが、フラットで良質なダートが続く。道幅にも余裕があ
り、万一対向車と出くわしても離合に苦労はしないですみそうだ。このあたりの標高は1,700メ
ートルを超えている。


すでに標高1,700メートル 道はフラットでよく整備されている

 解放されたゲートを通りすぎると、広場に出た。軽水林道はここで終点。左にぐるりと180度
曲がると、この先は富士林道となる。
 さっきまで天気がよかったのだが、あっという間に霧に包まれた。地形的にこの辺りは空模
様が急変しやすいのである。下界から見て富士が雲の中に入ったときには、この林道も視界
を奪われるわけだ。

 
軽水林道終点の広場 道は反転して続くが、この先は富士林道となる
直進方向も富士林道だがゲート閉鎖 もし開いていても数百メートル先で行き止まりらしい

 富士林道に入って、さらに高度を上げる。地図を見れば、富士林道の最高所は1,800メートル
以上に達するようだ。なだらかな山裾部分を走るため険しさは感じないが、それでも日本一の
山を走っているわけだから、高度もたいしたものなのである。道路脇には溶岩のような岩が露
出している様子もちらほら。富士は本当に火山なんだと改めて実感する。


富士林道でさらに高所まで上がっていく
道路脇の斜面には溶岩が露出する

 せっかく気持ちよく走っていたのに、前方に真新しい舗装路が現れた。残念、この富士にも
確実に舗装化の波が押し寄せてきていたのだ。相当立派な路面で、部分的に路側帯が設けら
れている。しかしこんな何もない道を舗装してどうするのだろう。
 このエリアにはかなりの通行止林道が存在するのだが、なぜか軽水林道・富士林道は周回
して通り抜けできるようにしてある。まさかちょっとした観光道路として整備されてしまうのだろう
か。自然保護を謳うのであれば、舗装するより未舗装のままががいいと思うし、観光客を招き
入れるような道路整備も矛盾している気がする。世界遺産登録に向けてまだまだ課題を残すと
言われる富士だが、そんな事情を垣間見るような気がした。


大自然に似つかわしくない、立派な舗装路に変わる
自然保護の面から考えれば、やはり未舗装の方がいいと思うが…

 登りの道がいつの間にか下りへと変わる。最高所を通り過ぎたようだ。路面はしっかり舗装
だが、さっきのできたて舗装より多少年期が感じられる。おそらく少し前に整備がなされた区間
なのだろう。
 下界の平野が見渡せる場所もある。地図を見れば本栖湖方面の眺めのようだから、旧上九
一色村(現在の富士河口湖町の一部)のパノラマのようだ。


富士林道から望む、旧上九一色村方向の眺望
標高1,800メートル以上からのパノラマだが、
上九一色村自体の標高が高いため、それほどの高度差はない
雲が立ちこめて空はどんより、イマイチの眺めである

 この先も全線が舗装済み。ある程度下れば、あとはアップダウンの少ない、直線メインの道
となる。支線はほとんどがゲート閉鎖されているので、終点向けてハイペース走行するしかな
い。あと数日で冬季閉鎖だというのに、時々対向車と出くわす。業務で走っている方々だろう
か。


下り終われば樹海の中の道
直線区間が多く、アップダウンは少なくなる

 富士スバルラインをくぐり、黄色いゲートのある十字路へ着くと、そこが富士林道の終点であ
る。左へ行けば1qくらいで中の茶屋という施設へと出られ、一方まっすぐ行けばすぐ吉田口
登山道で、こちらからも中の茶屋へ抜けることが可能だ。

 
富士林道出口(正確にはこちら側が起点) 左はダートで中の茶屋へ抜ける
直進すればすぐに吉田口登山道(簡易舗装済み)で、こちらからも中の茶屋へ行かれる
右折は徒歩専用の登山道で、車の進入を阻むバリケードが設置されている

 時刻は早くも午後4時。すでに薄暗くなってきているが、最後に近所の林道をもう1本だけ巡
ることにする。
 目指すは侭下(まました)林道。起点に行くには、一度中の茶屋に出て、そこから滝沢林道を
経由していくことになる。
 滝沢林道は富士山に向けて登っていく舗装路だが、途中で車両通行止となっているようだ。
道路脇に「演習場情報」と書かれた電光表示器があるが、今日は何も表示されていない。この
辺り一帯は陸上自衛隊北富士演習場となっていて、演習時は道路外への立ち入りは制限され
るようだ。ただし林道自体は自衛隊の管理ではなく、車で通行するだけなら問題はない。


滝沢林道を経由して侭下林道へ移動
道路脇の電光表示器は自衛隊演習場の情報表示

 しばらく進むと、ようやく左側に分岐するダートが見えてきた。侭下林道の案内板があり、ゲ
ートはあるがもちろん開いている。このエリアでは数少ない、一般走行が許されたダート林道
だ。早速走行開始である。

 
 

侭下林道起点 静かな山中にある

 フラットでまずまず良好な路面である。
 少し走ったところに、反対向きに設置された看板が立っている。振り返れば陸上自衛隊が設
置した「無断立ち入り禁止」の警告看板で、ここまでが北富士演習場内とのこと。終点側から
走ってきてこれを目にしたら、立ち入り禁止の文字に驚いて引き返しそうだが、これはもちろん
林道外の敷地についての警告なので、やはり道を通行する分には何ら問題ないようだ。

  
 
ここまでが陸上自衛隊北富士演習場のエリア内
柵やフェンスなどはないが、道路外へ許可なく立ち入ることはできない
「これより北富士演習場通行注意」とあるように、林道の通行自体は問題ないようだ

 少し視界が開けると、道路脇に何かの施設が見えてきた。アンテナのような塔と、ソーラーパ
ネルのようなものが設置されている。東京大学地震研究所が設置した地震観測施設で、深度
400メートル以上までボーリング掘削した穴の中に、傾斜計と短周期地震計を設置しているそ
うだ。


東大地震研究所観測施設脇を通過する

 富士山の山裾を平行移動する道なので、大きな起伏はなく、ひたすら樹海の中を走る。路面
がよく見通しもいい区間が多いので、なかなかハイペースでの走行が可能だ。残念なのは展
望が皆無である点。樹海の道だから、これは仕方がないか。

 
アップダウンも少なく走りやすい侭下林道 展望は皆無である

 見るべきものもなく、あっという間に終点。さっきの中の茶屋へと下りていく、吉田口登山道の
途中へ出た。登山道とは呼ばれているものの、今は五合目までスバルラインが通じているた
め、利用する人は多くないようだ。


吉田口登山道に出て、侭下林道終点


 日本一の山、富士山を林道から見た今回の小旅行で、今年の林道巡りも終わりである。振り
返ればいろいろやり残したことはあるが、それは年明け以降の課題として引き続き目標にして
いくつもりである。
 それにしても春までまだまだ長い。山は雪に閉ざされ、林道好きには厳しい季節である。果
たして春まで耐えられるのか?


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